三つの顔

僕は今、大学生、合唱サークル、塾講師の三つの顔を持っている。

塾講師として働き始めて1年半くらいになるだろうか。僕の住んでいる辺りには、これでもかという程あちこちに塾がある。塾、塾、塾・・。僕の地元も人口が多かったのでそれなりに塾はあったが、豊中市のように目をつぶって歩いても何かしらの塾にたどり着くというようなことはなかった。豊中市には教育熱心な家庭が多く集まっているのかもしれない。

今働いている塾はサークルの先輩の紹介で知った。大学生活に馴染み、そろそろバイトでもと思っていた時に紹介してもらったのだ。大手ではなく、個人経営の小さな塾である。塾長の方針で、講師は現役講師の紹介でないと入ることが出来ない。もちろん求人サイトや大学内のアルバイト紹介にも出ていない。また、誰でも紹介してよい訳ではなく、塾の目指している方針を理解し、その方針に合いそうな、信頼できる人間に限って紹介してよいという決まりがあった。僕はまだどんなバイトをするかイメージすらしていなかったが、先輩から紹介して貰えたのは何かの縁だと思い、塾講師をやってみることにした。

ありがたいことに僕は雇ってもらえ、週2回、一日3時間くらい働いている。時給は他校の塾講師のとさほど変わりはない。授業の準備は自分で行い、報告書は授業ごとではなく、週1回定期的に生徒の様子について書く。友人が大手の塾でバイトをしているが、サービス残業や学校前でのチラシ配りなどを強要されるとぼやいていた。僕も入ってすぐはサービス残業やチラシ配りをやらされると覚悟していたが全くそんなことはなく、報告書を書く時間もきちんと給料が発生した。他にも、テストの点を無我夢中で上げることよりも、生徒が自分の将来に希望を持てるようにすることを目指す塾の方針や、塾長のこだわりが随所に見られるのも、僕にとって刺激敵で、また学ぶことも多くある。

ふと、この塾で働いている自分を不思議に感じてしまうことがある。もしかしたら大手の塾で働いていたかもしれない。もしかしたら飲食業、もしかしたらサービス業だったかもしれない。ここで働けているのは、ひとえに縁のおかげである。美人の先輩に声をかけられ、体験練習へ行き、合唱サークルに入り、先輩に塾を紹介してもらい、そして今に至る。縁とは不思議なものだ。